2012年10月25日

やってみる、ではない。やるのだ。試しなどいらん

わたくしは、今カウチに腰を降ろし逮捕された犯人よろしく両手を前に掲げている。その手には毛糸がクルクルと巻きつけられ、そのモワモワは少しずつではあるが育っていくのがわかる。
目の前の嫁殿は"元衣類"から毛糸を導きながら眉間にしわを寄せている。まるで積年の恨みを晴らすかのごとく、わたくしを拘束し続けているのだった。
『あといくつ巻きつけるの?』こんな事を未来永劫続けられるのはかなわないので、やんわりと、それとなく聞いてみた。
『・・・う~ん。あと2つかな』 ・・・何でもいい、早く終わらせてもらいたいものだ。

『ありがとう。あとはいいよ』ようやく巻き取りが終わり、久しぶりの"シャバ"を享受しながらその後の工程を眺めていた。
『何ができるの?』別に手編みのセーターが欲しいわけではないが、完成品を聞くという駄賃くらいは構わないだろう。
『まだ、内緒。うまく出来るといいけど』嫁殿はわたくしへの駄賃をケチり作業に没頭していった。

わたくしはカウチの指定席にゴロリと横になり面白くないバラエティーを眺めながら、"元衣類"が何になって、そして誰を暖めるのかがだんだん気になっていった。
毛糸の色を見る限り、ダーク系で男物に向いた色味だ。結婚する前から、そんなモノは貰ったことも無いが(あげたこともないけど)たまには、そんなモノを貰うのも悪くは無いもんだ。しかも、我が家で男はわたくし一人しかいないのだから・・・。

しばし時が流れ・・・あれ以来、音沙汰が無くなったセーターが気になっていた。リビングのすみに置いてある編み棒と毛糸。
形状は不明だが、何やら完成に近づいているであろうカタマリ。
『ねぇセーターどうなった?』このセッカチめ!我慢できず聞いてしまった。こういう時ってやつぁ完成品を静かに受け取るモンだろう。
『うん。今日あたり出来上がるかな?』嫁殿は上機嫌だ。

そして、また"指定席"でゴロっとしたフリをしながら横目で監視を続けていた。
嫁殿の表情が曇る。『あぁ!!やっちゃった。しょうがないからてっぽちゃんの帽子にしよう
ん?何?どういうことだ!!わたくしにセーターを作ってくれていたのでは無いのか?しかも失敗したから、わたくしの帽子って?

わたくしはカウチから飛び起き、事の真相を問いただした。

『こてっぽさんにセーター作ってあげようかなぁって。でも失敗したから帽子にしてあげるね』

まさか、愛犬に負けるなんて・・・そんな失敗からの派生品なんていらん!!・・・いや、ください。

足元のこてっぽさん(仮)を眺める。そんな男の敗北を我関せずとばかり、彼の"指定席"で丸くなっていた。

音も無く寒さはやってくるってか


ヤツの男っぷりに完敗。


L'hiver proche vient. Mais le coeur est chaud.

皆様との幸せな時間がいつまでも続きますように

ではでは




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